タイトル

[NOMAOI]
「相馬野馬追(のまおい)」は福島県南相馬市を中心とした地域で開催され、千有余年の歴史を誇る馬の祭典です。先祖伝来の甲冑に身を固めた騎馬武者達が神々と共に決戦の地を目指し進軍する様は、正に戦国絵巻そのものです。祭典は3日間に及んで執り行われます。初日の「出陣・宵乗り競馬」から始まり、二日目は「お行列~甲冑競馬~神旗争奪戦」が、そして最終日の野馬懸へと続きます。
そもそも相馬野馬追を撮影することになったは、3.11の震災後、ボランティアでどこに行くか考えていた時、たまたま南相馬出身の友人から現地の話を聞いたことがきっかけでした。
2011年の7月、初めて南相馬に入った時の衝撃は今でも忘れられません。ボランティアとして私に与えられた主な仕事は津波で流されたアルバムやフィルムの洗浄でした。胸が締め付けられる思いでネガフィルムを1コマ1コマ洗浄しながら改めて気づかされたのは、この一枚の写真にたくさん思い出と込められていて、被災した方々にとっては掛け替えの無いものだということです。もしかすると、この一枚の写真が被災した方々の心の支えになりうるかも知れないと思いました。
その後、南相馬出身の友人から相馬野馬追というお祭りがあるので一緒に行かないかと誘われ、観に行きました。2012年夏、初めて観た野馬追にすっかり圧倒され、虜になってしまいました。


取り分け私が心引かれたのは、最終日に執り行われる神事「野馬懸」です。野馬懸は竹矢来へ追い込まれた荒馬めがけ白装束の御小人が一斉に飛び掛り、最初に捕らえられた馬を神馬として妙見社に奉納する神事です。しかし、この「野馬懸」が執り行われる小高神社は、福島第一原発からわずか17kmしか離れておらず2011年の開催は見送られました。ですから、2012年震災後に開催された「野馬懸」は相馬の人々にとって、特別な思いがあったと思います。
今現在、避難指示解除準備区域に指定され住むことが出来ない小高区は、除染やインフラ整備も進みつつあります。しかし海岸沿いに行ってみると3.11から時間が止まっているかのような光景が未だに広がっています。騎馬武者の表情からは祭典が例年通り開催できた事への喜びと、伝統文化を守ってきた誇りを感じました。と同時に先の見えない不安な気持ちと苛立ちといった複雑な思いもあるように映りました。この作品を通して、相馬野馬追の素晴らしさは勿論のこと、そこで暮らす人々の複雑な思いを広く知って頂き、今も生き続けている相馬武士の魂を感じて頂ければ幸いです。


フォトグラファー:河野俊之